2026年No.414(2026年3号、7月)
FFKMの架橋技術概論
研究開発本部 浜松研究所 研究部門 清水 智也1.はじめに
ゴムはタイヤやホース,ベルト,防振ゴム,シール材などさまざまなところで使われており,現代社会において必要不可欠な材料となっている。ゴム最大の特徴は,力を加えると形が変形し,力を取り除くと元の形に戻る可逆的な大変形が可能なことである。この可逆的な大変形を可能とするためにはゴムのポリマー同士を繫ぐ架橋が必要である。1839年,アメリカのチャールズ・グッドイヤー氏が天然ゴムに硫黄を加えて加熱することで架橋(硫黄で架橋させる場合は加硫と言うこともある)することを発見して以来,ゴムの種類や必要な特性に合わせて硫黄以外にもいろいろな架橋系が開発されてきた。
フッ素ゴムはポリマー中に炭素-フッ素結合を有する合成ゴムの総称で,耐熱性,耐油性,耐薬品性に非常に優れた材料である。その特性ゆえに,自動車部品,化学プラント,半導体製造装置,石油掘削などのシール材やホース等の高い信頼性が要求される用途で使用されている。フッ素ゴムは表1に示すようにポリマー組成によって,フッ化ビニリデン系(FKM),テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM),テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系(FFKM)などに分類され,用途によって使い分けされている。また,フッ素ゴムは架橋系によってもさまざまな特徴が発現し,使用環境によって適切な架橋系を選択する必要がある。本稿では,FFKMの架橋技術について紹介する。

2.従来の架橋技術
FKMやFEPMはポリマー中に炭素-水素結合を含むため(表1参照),熱や化学薬品に対する劣化要因の一つになっている。一方,FFKMは,ポリマー中に水素原子を含まないため,全ゴム中最高の耐熱性,耐薬品性を有している。
FFKMはポリマーに不飽和結合や炭素-水素結合を含まないため,FKMのアミン架橋やポリオール架橋のように脱フッ化水素させて架橋することができない。そのため,FFKMには架橋反応部位(CSM)としてヨウ素や臭素,ニトリル基が導入されている。FFKMの架橋には,パーオキサイド架橋(架橋反応部位がヨウ素や臭素)とニトリル基による架橋の2 種類があり1),要求特性に合わせて選択されている。代表的な架橋構造と特徴を表2に示す。

2.1 パーオキサイド架橋2)
パーオキサイド架橋はFFKMに架橋反応部位としてあらかじめ導入されているヨウ素や臭素をラジカル反応により架橋させる方法である。パーオキサイド架橋では共架橋剤として多官能不飽和化合物(トリアリルイソシアヌレート(TAIC)や1,6-ジビニルパーフルオロヘキサン3))と開始剤として有機パーオキサイドをゴムに配合する。図1に示すように,開始剤から発生したラジカルと多官能不飽和化合物やFFKM中のヨウ素,臭素が反応することで架橋を行う。基本的に受酸剤である金属酸化物を必要としないので,耐酸性や耐水蒸気性に優れた架橋系である。パーオキサイド架橋はニトリル基による架橋と比べ,成形性や耐水蒸気性,耐アミン性に優れている。
2.2 ニトリル基による架橋
ニトリル基による架橋には,有機スズ化合物や有機リン化合物を触媒4),5)としてニトリル基が三量化したトリアジン環を誘導するトリアジン架橋や2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BOAP)などの架橋剤6)を用いる方法がある。特にトリアジン架橋は非常に耐熱性に優れ,耐熱性が求められる半導体製造装置用のシール材として多く使われている。しかし,架橋速度が遅く成形性に難があることや高温の水蒸気やアミンに弱いといった弱点もある。
3.新しいFFKMの架橋技術
FFKMは半導体製造装置や化学プラントの中でも特に過酷な環境下でのシール材として使用されている。半導体の微細化や3D化,化学プラントの高温化などからFFKMに要求される特性も年々厳しくなっており,この要求に応えるべくFFKMの新規架橋系に関する研究も数多く行われている。当社におけるFFKMの架橋研究例として,純粋性の高い架橋と耐水蒸気性の高い架橋について紹介する。
3.1 純粋性の高い高耐熱架橋
表2に示すようにトリアジン架橋は非常に耐熱性に優れているが,架橋触媒には有機スズや有機リン化合物などが用いられており,スズやリンといった元素を極端に嫌う一部の半導体関連用途では,これらの元素を含まず純粋性の高いトリアジン架橋FFKMが求められている。そこで当社ではアミンを用いたトリアジン架橋触媒についての研究開発を行った7)。その一例を紹介する。
3.1.1 アミンによる架橋特性
フルオロカーボンニトリルをアミン存在下で加熱するとニトリル基が三量化してトリアジン環を形成する8)。そこで,アミンとして塩基性の高い化合物に着目し,塩基性の指標である酸解離定数
(pKa)の比較的大きな化合物を選定して架橋特性を評価した。結果を表3に示す。塩基性が最も高い(pKaが大きい)1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)はゴム混練時に架橋が進行するスコーチが発生した。一方,1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO),キヌクリジンは正常に混練することができたが,従来の有機リン触媒と比べると触媒活性が低かった。また,プロトンスポンジはキヌクリジンよりも塩基性が強いにもかかわらず架橋しなかった。これは,プロトンスポンジは4 つのメチル基の立体反発によって窒素のローンペアが歪んだ構造になっているため,ニトリル基が入れず触媒活性が発現しなかったためだと考えられる。
また,DBUは触媒活性が高すぎるため,ゴム混練時にスコーチが発生する問題があった。そこで,活性の高いDBUに熱潜在性を持たせるために,保護基(酸)の検討を行った。狙いは,混練(常温)の時は保護基によってDBUを不活性化させてスコーチを防ぎ,架橋させる時は熱によって保護基を外して触媒活性を高めることである。 保護基としてカルボキシル基の数が1つのモノカルボン酸とカルボキシル基が2つのジカルボン酸を用いて,混練性,架橋特性,成形性を評価した。結果を表4に示す。モノカルボン酸では活性を抑えることができず混練時にスコーチが発生した。一方,ジカルボン酸は期待どおりの混練性,架橋特性を発現した。


3.1.2 従来触媒(有機リン系)との性能比較
DBU-シュウ酸触媒と従来の架橋触媒(有機リン系)について,トリアジン生成量と耐熱性(圧縮永久ひずみ)の比較を行った。トリアジン生成量は,フーリエ変換赤外分光光度計を用いて,架橋させたゴム薄膜の透過スペクトルで定量した。薄膜の厚さバラツキの影響をなくすために,CF結合の倍音振動吸収帯(2360cm-1)を基準ピークとし,トリアジン環の吸収帯(1555cm-1)と基準ピークの吸光度比(A1555/A2360)で定量的な評価を行った。結果を図2に示す。トリアジン生成量,耐熱性ともにDBU-シュウ酸触媒は従来触媒と同等であった。
従来のトリアジン架橋触媒にはスズやリンが含まれていたため,半導体製造装置における使用は限定的になるケースもあったが,このアミン系の触媒を使えば限定しない使用が可能である。
3.2 耐高温水蒸気架橋
水蒸気はエネルギー産業や化学産業など多岐にわたる分野で使用されている。これら水蒸気が流れる配管や装置では,水蒸気が外部に漏れるのを防ぐためにゴムOリング等のシール材が使われている。近年,水蒸気の温度が上がり,これらのラインに使用されるシール材にも300℃以上の耐高温水蒸気性が求められるようになってきた。しかしながら,表2 に示すように従来の架橋系では300℃以上の高温水蒸気に耐性のあるものはなかった。そこで当社では,300℃以上の耐高温水蒸気性を有する新規の架橋剤の研究開発を行っており9),その研究例の一部を紹介する。
3.2.1 耐高温水蒸気性に優れた架橋構造の設計
耐高温水蒸気性に優れた架橋構造を設計するにあたり,考えられる全ての架橋構造を検討すると膨大な時間とコストが掛かる。そこで,反応シミュレーションによって,耐高温水蒸気性に優れた架橋構造のスクリーニングを行った。設計した架橋構造のモデル化合物と水蒸気,すなわち水分子が反応するのに必要な活性化エネルギーを,分子軌道計算によって求めた。計算はGaussian 09W(Rev. C.01)を用い,B3LYP/6-31+G*の基底関数系で行った。活性化エネルギーが大きいほど水蒸気との反応が起こりにくく,耐高温水蒸気性の高い架橋構造であると言える。
ベンチマークとして水蒸気に弱いトリアジン架橋,現状300℃に近い耐高温水蒸気性を有するフッ素化ビスオレフィン架橋のシミュレーションも併せて行った。計算結果を表5に示す。構造Aはフッ素化ビスオレフィンよりも活性化エネルギーが低く,耐高温水蒸気性が劣っているが,構造Bはフッ素化ビスオレフィンよりも活性化エネルギーが高く,耐高温水蒸気性が高いと予想された。

3.2.2 実証結果
シミュレーション結果より構造Bは,300℃の耐高温水蒸気性を達成できる可能性があることが示唆された。そこで,構造Bを誘導できる新規架橋剤として4,4ʼ-ビス(トリフロロビニル)ビフェニル(以下,FB-S)と1,6-ビス[4-(トリフロロビニル)フェニル]ドデカフロロヘキサン(以下,RF-S)を合成し(図3),それぞれの架橋剤で架橋させたFFKMの耐高温水蒸気性,架橋反応効率を検証した。結果を表6に示す。FB-S,RF-Sで架橋させたFFKMはベンチマークであるフッ素化ビスオレフィン(1,6-ジビニルパーフロロヘキサン)で架橋させたFFKMよりも300℃における耐高温水蒸気性に優れており,シミュレーション結果が妥当であることが分かった。また,FB-Sで架橋させたFFKM架橋密度が低いのに対し,RF-Sで架橋させたFFKMは架橋密度が高かった。これは,RF-Sはパーフルオロアルキル鎖を持つので,FFKM中に均一に分散し,架橋剤とゴムの反応点同士が近づきやすくなったからだと考えられる。このように,新規架橋剤を開発する際は架橋構造の特性(水蒸気に対する耐性など)や架橋効
率をいかに上げるか重要となってくる。

4.おわりに
当社ではこれら架橋技術を高機能ゴム製品(ブレイザー® シリーズ)へ展開しており,各所でご使用いただき,ご好評をいただいている。半導体製造装置や化学プラントなどに使われるゴムシール材の使用環境は,ますます過酷かつ多様化していくため,シール材に要求される特性も厳しくなっていくことが予想される。これに応えるべく当社でも架橋技術に関する研究開発をさらに発展させる所存である。
参考文献
1) Shuhong Wang, John M. Legare, Journal of Fluorine Chemistr y,113-119, 122 (2003)
2) 徳平勝貞,日本ゴム協会誌,73(6),298(2000)
3) 特許第5057657 号
4) USP 4,281,092
5) 特表2005-506391 号公報
6) USP 4,525,539
7) FFKMのトリアジン架橋触媒に関する研究.ニチアス技術時報.No.362,p.4-7(2013)
https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2013/362_01.pdf
8) 河合弘迪,材料試験,9(86),706(1960)
9) 耐高温蒸気性に優れた新規架橋構造の開発.ニチアス技術時報.No.376,p.6-11(2017)
https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2017/376_02.pdf
有機フッ素化合物の合成と応用最前線,清水智也,第2 章6 フッ素ゴムの架橋について,シーエムシー出版,2025,p.258-266
*本稿の測定値は参考値であり,保証値ではございません。
*「ブレイザー」はニチアス㈱の登録商標です。
筆者紹介

清水 智也
ニチアス株式会社 浜松研究所 研究部門
ゴムの研究開発に従事
